ニーチェと山

kechida2006-11-30

ヨーロッパの地理感覚はさっぱり分からないのですが、スイスのバーゼルで文献学の教授職に就いていたというニーチェはきっとアルプスをよく目にしていたに違いありません。しばしば著作で山に言及しています。

(…)さて、ツァラトゥストラは山をのぼりながら、みちみち、若き日以来の孤独な旅路のあれこれを回想し、いままでどれほど多くの山々や尾根や峰にのぼったことかと思った。/わたしは漂泊の旅びとだ、登山者だ、とかれは自分の心に向かって言った。わたしは平地が好きではない。わたしは長いこと腰をおちつけてはいられないらしい。/これからさきも、いろんな運命や体験がこの身をおとずれることだろう、──だが、それもきっと漂泊と登攀というかたちになるだろう。われわれは結局、自分自身を体験するだけなのだ。(…)最高の山々はどこから来たのか? いつかわたしはそう尋ねた。そしてそれが海から生まれたということを学んだ。/証拠はそれらの岩石に書かれている。頂上の岩壁に刻まれている。いとも高いものは、いとも深いものが高まって成ったものだ。

──わたしの著作の空気を呼吸するすべを心得ている者は、それが高山の空気、強烈な空気であることを知っている。ひとはまずこの空気に合うように出来ていなければならぬ。さもないと、その中で風邪をひく危険は、けっして小さくはない。氷はまぢかだ。孤独はぞっとするほどだ。──しかし、なんと安らかに万物は光の中に横たわっていることか! なんと自由に呼吸できることか! なんと多くのものがわれらの下位に感じられることか!──わたしがこれまで理解し、身をもって生きてきた哲学は、自ら進んで氷と高山の中に生きることであるのだ──