アバクロ問答

kechida2007-10-28

アバクロ、すなわち Abercrombie & Fitch にとりたてて興味があるわけではないのですが、先日、ちょっと調べ物をしているときに、「エイバークロンビー」と表記しているのを目にし、ナルホドと思ってちょっと調べてみました。ほんとにちょっとしか調べていませんからアレですが、おそらく発音記号的には「a」と「e」がくっついたヤツか、あるいは「e」の天地左右が反転したヤツみたいなので、「エイバークロンビー」とまではする必要はなさそうです。Aberdeen もエイバーディーンとは言いませんし。ただ、アクセントは Ab にあるみたいです。なんとなく私は crom にアクセントを置いてしまいますが。
そんな話はさておき、何年か前にこんな騒動があったようです。
ABERCROMBIE & GLITCH / Asian Americans rip retailer for stereotypes on T-shirts - SFGate
で、話は大きく飛びます。おそらく、ファン以外は見たことがないと思われる、Prince の2作目の映画『アンダー・ザ・チェリームーン』のあるシーンを思い起こしました。舞台はフランス、Prince演じるクリストファー・トレイシーは黒人のジゴロ、それがセレブの白人女性と真実の恋に堕ちるも、この女性の父親の無理解ゆえ命を落とす、という話です。このセレブ娘マリーを、知識や教養はあるけど世間を知らないと言ってクリストファーがおちょくるときに奇妙なギャグが出てきます。フレンチレストランでナプキンにWRECCA STOWと書き、この言葉を知っているかとクリストファーはマリーに尋ねます。「意味なんてないわ」とマリーは答えるもクリストファーは「意味はある」と取り合いません。さらに「僕は父親の許可がなくても食事に出ることができる」とマリーを挑発し、「教養のあるところ(レストラン)で大声で読んでみろ」と迫ります。レッカ・ストーとマリーが大まじめに答えると、クリストファーと相棒のトリッキーは床を踏み鳴らし野卑な声で笑います。「分かってないな、もう一度、読んでみろ」と言われても「レッカ・ストー」と答えるほかありません。憤慨し「どういう意味なの?」と問うマリーにサム・クックのアルバムはどこで買う?」とクリストファー。しばし考えた後にレコード・ストアーと答えると、ふたたびクリストファーとトリッキーは大爆笑するワケです。
「音」と「意味」が「文字」を介して横滑りするとき、奇妙な可笑しさを感じると同時に、残酷な差別と排除を露わにすると言えるのかもしれません。さらに余談ですが、Princeには“I would die 4 U”なんて曲がありますが、「4 U」はもちろん「FOR YOU」です。日本でも、2ちゃんねるの奇妙な文体がえらくクールに見えたりするのはその辺に原因があるのではないかと。さらに日本語が面白いのは、映像的な横滑りもあるからです。ネ申とはすなわちです。いわゆる縦読みなんて、アナグラムそのものですからね。さらにそれはスクロールというパソコンやインターネット掲示板特有の機能と結びついているわけです。『一般言語学講義』のソシュールアナグラムの研究に没頭していたとのことですが、「意味」とか「音」とか「記号」とか……、そういうのが鬱陶しかったのだろうなぁと何となく思ったりします。