Stereolab - Fluorescences


ときおり音楽を聴いていると千々に乱れるというか、あまりに気持ち良くてひたすら快楽に耽溺したくなるというか……、でも、その快楽は3分しか持続しないというその制約がいっそう切なさをかき立てるというか、そんな気分になる曲です。おおげさですね。

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ようこそ2000年代へ。惑星全体に張り巡らされた銅線および光ファイバー網はリゾーム状のネットワークを形成し、人々に新しい価値を提供する一方、高度な金融技術は価値を差延化し、そうすることでありもしない価値を再び生み出し、永遠に続く繁栄を謳歌しているかのようです。ひどく疲れた時は、1980年代製の古風なパーソナルコンピューターをインテリアとして飾り立てる奇妙な酒場のカウンターに腰を下ろし、いくぶん甘くてキラキラした味のする強いリキュールを呷れば、たちまちアルコールがもたらす酔いが感傷的な幻覚をもたらし、疲れた心を浄化してくれるに違いありません。いまや骨董品とすら言えるモノクロのブラウン管にはけっして像を結ばない美しい女とドイツ表現主義の映画の主人公のような濃い影を帯びた無表情な男が交互に現れ、空気を振るわせ音楽を奏でます。いつの間にかカウンターに伏し自堕落な眠りに陥ると、その背中にはいまだ体温の温もりと湿った異性の香りがかすかに残る外套が掛けられます。そこに誰かがいることは確かに感知できるのだけれど、どうしても目を開けることができないまま、「あなたが示してくれた好意には感謝するわ」と押し殺した調子でささやく声が、さらに深い眠りへと陥ることを妨げます。やがてパーソナルコンピューターのディスプレイには蛍光色の矩形が明滅するスクリーンセーバーが作動しはじめます。男は足元がちょっと寒いな、と思いつつも最後まで目を開けることができないままカウンターに伏し続けるほかありません。扉の向こうはフレンチ・ディスコだ。