西園寺公一

あれこれ買い集めたグラバー本だが、まったく手つかずでいる。西園寺公一という人はグラバーというか日本のFFの歴史を調べていたらおそらく一度は目にする名前だと思うが、今日たまたまグラバー本とは関係ないところで二度も目にしたのでちょっと驚いた。ひとつはゾルゲ本。帰りの電車で読んでいた日ソ中立条約を締結した1941(昭和16)年の松岡外相の訪欧に触れた箇所に以下のようにある。

ゾルゲ諜報網は松岡[外相]の随行員に〈もぐら〉を潜行させていた。西園寺公一さいおんじ・きんかず)である。昭和11[1936]年のヨセミテ会議出席以来、尾崎[秀実]に心服していたこの貴族の末裔は、外務省嘱託として使節団に参加していた。

ロバート・ワイトマンゾルゲ 引裂かれたスパイ〈上〉 (新潮文庫)』新潮社、p.322.[ ]内は引用者補記

まだ最後まで読んでいないのだが、尾崎秀実(「ほつみ」と読む)は元朝日新聞の記者で、ソ連のスパイであるゾルゲの諜報網に内通していたとされ1944年にゾルゲとともに処刑されている。一方、西園寺公一も逮捕されたものの爵位と財産を没収されただけで済んだようだ。ちなみにgoogleで「ゾルゲ 西園寺公一」を検索するとこんな感じ。考えてみれば、MANI-HANAさんのこのエントリでも西園寺公一ゾルゲの名は目にしていたはず。ちなみに引用文中に出てくる「ヨセミテ」の名もチト気になる(これは以下で触れる『釣魚迷』を読めば明らかになるかも)。
さて、本日もう一度、西園寺公一の名を目にしたのは『フライの雑誌』のブログ「仙川日記」のこのエントリ西園寺公一の『新編 釣魚迷 (つり人ノベルズ)』(つり人社)に言及している。詳しくは仙川日記を参照されたい。さっそく注文してみた。
さらに大風呂敷を広げてしまえば、今日たまたま立ち読みした『Basser』誌の吉田幸二さんと升秀夫さんの連載では足尾銅山鉱毒問題が取り上げられていたが、この記事中で中禅寺湖と渡良瀬が意外に近いことが指摘されている。明治以降の近代化過程のある側面が日光=中禅寺湖と渡良瀬に集約されていると言えるかもしれない。すなわち、それは明治以降の日本的エリートと「外国人」「財閥」「貴族」の関係であり、また、「風景=観光地」を発見するにいたった認識の枠組みの変化である*1。また、江戸時代においては日光はまず霊場であったわけだが、近代化の過程で自然そのものを「崇高なもの」とする見方や「健康=保養」「避暑」「行楽」といった江戸時代には考えられないような価値が生まれていった。「スポーツ・フィッシング」もそのひとつであるはず。中禅寺湖にマスがいて、渡良瀬遊水池にバスがいるのは日本の近代化過程における必然だといえるかもしれない(笑。
なんだか、フカしまくってるけど、けっこう楽しいかも。

*1:この点については、柄谷行人日本近代文学の起源 (講談社文芸文庫)』を参照されたい。武蔵野の雑木林は江戸時代までは「ただの雑木林」でしかなかったのだが、国木田独歩は近代的自我の反照として「武蔵野の雑木林」を発見したというワケだ。