屋上登攀者

藤木九三『屋上登攀者 (岩波文庫)』がメチャメチャ面白かったです。筋金入りのアルピニストでありクライマーであった著者ですが、最初の話は「山旅と峠」と題された話であり、峠が古来果たしてきた文化的な役割──すなわち、地理的に文化を分断しつつ、一方で交易の中継点であった──についての随想です。

由来、山岳それ自身は文化の阻止者であったのです。しかし阻まれた文化は『峠』を越すことによって、反逆者である天嶮を打ち破りました。(中略) 峠そのものの起源は人間の本能的な欲望を満たさんとする努力が、屏風を繞らしたように聳えたジッグザッグの尾根つづきの、比較的低く、通過の容易な鞍部を見つけ出したことによるのであります。そして谷を遡り、始めてこの天嶮を越したことにより、そこに『峠』の発生を物語る最も原始的な過程が生まれ、次いで双方から、この鞍部を越えることを繰り返すことによって、完全に峠と呼ぶ概念が出来上がったのです。(p.14)

先日読んだ『山岳地形と読図』に「コル」という用語が出てきて、まぁ、それが何を意味するのか分かったし*1、読図する上で重要なポイントであることも分かったわけですが、そもそも何語であり、どういう起源をもった言葉なのかがまったく分からなかったワケです。でも、このエッセイを読んで爽快に分かりました。
この本はいろいろ面白かったので、しばらく続きそうです。

*1:稜線上にピークがふたつあったとき、その間に必ず存在する低くなった地点