戦後レジーム

下山事件―最後の証言

下山事件―最後の証言

……からの脱却をスローガンに掲げていた、3世(2世)議員の首相が失脚してから半年、停滞する政治が生活に暗い影を投げかける中、『下山事件―最後の証言』を読みました下山事件の概略についてはコチラからどうぞ)。著者の柴田哲孝は『日本怪魚伝 (角川地球人BOOKS)』や『オーパ!の遺産』という本を著していて、いずれも未読なのですが、ひとりの釣り人としてもこの著者に注目していました。
で、『下山事件―最後の証言』ですが、あまりに面白く、一気に読了してしまいました。この本を読めば、戦後レジームからの脱却なんていう標語(スローガン)が、いかに空疎なものであるかがよく分かります。というか、今こそまさに戦後レジームの亡霊のようなものが跋扈しているワケで、安部某もしかり、麻生某もしかり、近年奇妙なブームとなっている戒名不要の人もしかり。もし、あのようなみっともない失脚をしなかったとして安部某は本当に戦後レジームから脱することができたのでしょうか? むしろ戦後レジーム──吉田茂佐藤栄作岸信介などへの回帰を志向していたように思えます。
私自身は、完全にある特定の戦後スキームの影響下にある人間であり、それをいささか自虐的に日教組スキームと呼ぶことにそれほどためらいはありません。これはさらに遡れば、財閥解体、農地解放、公職追放、というGHQ占領政策に起源を持つのかもしれません。しかし、実態としてGHQ占領政策はけっして一枚岩ではなくて、要するに占領政策においても、民主党的なものと共和党的なものがはげしくせめぎ合っていたわけです。最初は、日本国憲法戦争放棄に見られるような、ある種理想主義的な左よりの占領政策がとられていました。財閥解体、農地解放、公職追放もその流れにあります。しかし、これに対して、当然揺り戻しもあるわけで、そういうところでCIAやら右翼の大物が暗躍したり、得体のしれない巨額の資金が飛び交ったりしたりもします。下山事件はそのような枠組みのなかで起こったということが、この本を読んでよく分かりました。
著者は釣りをたしなむ人であることは前述の通りですが、個人的にはそのあたりの背景というかディテールにも関心があります。まず『オーパ!の遺産』という本は、もちろん開高健へのオマージュであるに違いないでしょうから、例えばその流れで、只見銀山湖奥只見ダムが視界に浮上してきます。それから、著者の祖父は吉祥寺に居を構え、釣り具や鉄道模型の輸入商社を営んでいたこともあると言います。すでに何度か当ダイアリでも言及していますが、赤星鉄馬は吉祥寺に居を構えていたことがあり、また、成蹊大学の近くにはマルカツという釣具店があって、ティファという釣具メーカー・輸入代理店があったりします。そんな辺りも気になります(三菱がらみの話もあることだし)
最後にちょっとネタバレ話。著者は数々の偽情報・怪情報・ブラフが飛び交う下山事件において、この手の偽情報はもっともらしい嘘の中に一定の真実を含んでいたり、実際に起きた真実の一部をもっともらしい嘘に置き換えて話をぼやかしていたりしているものだと言います。それはきっとその通りなのでしょう。というか、それは一種のメタメッセージであり、著者もまたこの本でいくつかのもっともらしい嘘をフカしているようでもあります。たとえばそれは冒頭の写真の中にもあったりするのかなぁと。いずれにせよ超オススメです!