Last Tango in Paris


好きな映画は何ですか?とか、無人島に持って行きたいDVDは?と聞かれたら、僕は必ず『Last Tango in Paris』と答えます。
グラマラスなブルジョア娘=マリア・シュナイダーと体型が崩れはじめ往年の輝きを失いつつあるマーロン・ブランド(いや本当は全然カッコいいのですが)がパリのアパートメントの一室で嘘のように出会い、獣のように愛し合った後、ブルジョア娘が日常を取り戻すべくすべて嘘であったかのようにマーロン・ブランドは殺される、そんな映画です。
蓮實重彦氏が指摘する通り、この映画においては性行為はベッドで行われることはありません。ベッドに横たわる事ができるのは死骸だけです。全編を通じてベッドは愛し合ったり安息したりする場ではあり得ません。それどころか、マーロン・ブランドは床に這いつくばりバターを用いてマリア・シュナイダーの肛門を背後から陵辱するのですから、その背徳ぶりは徹底しています。
地獄の黙示録』の撮影監督として有名なヴィットリオ・ストラーロの映像も、ガトー・バルビエリによる音楽も退廃的で美しく、すべてが完璧に思えます。
ベルナルド・ベルトルッチ監督の比較的の最近の作品である『ラスト・エンペラー』も『シェルタリング・スカイ』も『ドリーマーズ』もどれも素晴らしい映画で、僕はいずれも大好きです。ただ『ラスト・タンゴ〜』をはじめ『暗殺の森』など60年代から70年代にかけての作品は本当に素晴らしく、それを超えるような作品はもう撮れないかもしれません。でも、映画から逃げず映画に向き合い続けている感じがします。それはとても希有な事に思えます。
それにしても昔の予告編ってずいぶん素朴だったのですね! マリア・シュナイダーが苦痛に顔を歪めている場面が一瞬映りますが、それが件のバターの場面です。