最近、読んだ本。
大竹伸朗『カスバの男―大竹伸朗モロッコ日記』(文庫版はコチラ)を読んだのがきっかけで、なんとなくモロッコつながり。ちなみにブライアン・ジョーンズの『ジャジューカ』はあっさり見つかった。
1. ウィリアム・S・バロウズ『裸のランチ (河出文庫)』
「ジャンキーでおかまで妻殺し」の伝説の作家バロウズの代表作。こんなの読めるのかなぁ、と思って読み始めたら、かなり面白かった。巻末の解説で山形浩生がカットアップ三部作(『ソフト・マシーン』『ノヴァ急報』『爆発した切符』)をこう評している。「具体的な風景をほとんど持たない、観念とおぼろげな記憶のみが交鎖する、時に美しい、時に耐えがたいほど退屈な、不思議なブレンド小説となっている」。カットアップ三部作を読んだことはないが、程度の差こそあれ、『裸のランチ』にもこの評は当てはまるのではないだろうか。たとえば、9月の日記で触れた「スティーリー・ダン」が出てくるくだりは次の通り。
洗脳された中年男「いとし」のルウが言う。「おれは完全にフィッシュスキンのサック党だ……なぁ、ねえさんたち、打ち明けて言えば、おれは横浜製の鋼鉄チンチンってのを使うんだ、どうだね? 鋼鉄チンチンはけっして失敗しないんだ。それに、そのほうがずっと衛生的で、人間の腰から下をしびれさせちまうような恐ろしいバイキンを全部避けてくれる。女には毒のジュースがあるからな……」
という感じで基本的には、訳分かんない。ちなみにカットアップとはあり合わせの文章を、カット&ペーストして不思議な文章を作る手法。デイヴィッド・クローネンバーグによって映画化もされているが、原作を忠実に映画化したわけではない。
2. 大竹伸朗『既にそこにあるもの』
過去にあちらこちらに書いた文章を一冊にまとめた雑文集。個々の話は面白いけど通して読むには辛いかも。就寝前のひととき、あるいはトイレなどでコツコツ読むのが良さそう。
3. 四方田犬彦『モロッコ流謫(るたく)』
映画評論家もしている著者は、ニューヨークあたりで開かれていた、気の置けないパーティーだかなんだかで、ジム・ジャームッシュからモロッコのポール・ボウルズの連絡先を教えてもらい、モロッコを訪問することになる。そんな感じのエピソード満載で(例えばモロッコ大使を務めていた三島由紀夫の実弟との交流なんかも触れられている)、著者の博識ぶりも驚くばかりなのだが、全体としてはとりとめのない随筆集とでも言うべき本になっている。ボウルズはベルトリッチ監督『シェルタリング・スカイ』の原作を著した人であり、80年代には、バロウズ、ブコウスキーとならび3Bなどと称され、ニューヨークあたりのヤッピーな人々に人気があったらしい。
4. アガサ・クリスティ『アクロイド殺し (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)』
用いられたトリックがフェアかアンフェアかでミステリ界に物議をかもした。僕はすでに種も仕掛けも知っていたが、古典中の古典なので読んでみた。読者 vs 作者って意味じゃ、アンフェアだと思うけど、自律した虚構の世界の中の探偵 vs 犯人という意味じゃフェアなんじゃないでしょうか。