最近読んだ本。

1. トマス・ハリスハンニバル(上) (新潮文庫)

あぜーん。ハンニバル博士がただの正義の味方に成り下がってしまっている。クラリススターリングの魂が救済されたとはとても思えない。続編を予感させる映画の結末とはかなり違う結末が用意されている。それにしてもなぁ……、ハンニバル博士ってもっと複雑な陰影に富んだ人物だと勝手に思っていたのだが……。

2. サイモン・シン暗号解読―ロゼッタストーンから量子暗号まで

以前にルドルフ・キッペンハーン『ASIN:4167651025』という本も読んだことがあるのだが、いずれも面白すぎる。暗号の歴史という意味ではどちらの本も同じような内容だけど、サイモン・シンの本の方が、盛り込まれているエピソードがより面白かった。純粋な暗号ではないが、ヒエログリフという一見すると象形文字風の古代エジプトの文字が記された「ロゼッタストーン」の解読や、クレタ島線文字Bの解読などはゾクゾクしながら読んだ。また、量子コンピューターや量子暗号の話は『暗号攻防史』には盛り込まれていない。難しいなりに量子論がちょっとだけ分かった。太平洋戦争中、米軍はナヴァホ族の通信士を使って通信していたそうだ。ナヴァホ語を理解できる日本人はいなかったので、これはとても強力な暗号だったそうだ。オウム真理教RSAというとても強力な暗号を使っていたらしい(暗号化されたWEBページを閲覧していると、設定によってはブラウザの下の方にRSAがナンチャラカンチャラってチョロチョロ出てきたりする)。僕もカッコつけてページのトップに公開鍵でも置いておこうかしら。
同じ作家の『フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで』って本もあってこちらも面白そう。

3. 安部公房第四間氷期 (新潮文庫)

世田谷文学館の「安部公房」展に触発されて読んでみた。といってももう若くもないのでブンガクはいまいち苦手っていうか読む気になれないので、SFチックなこの本にしてみた。小松左京ならもう少し大げさな話になっていたかもしれないところをサラっとまとめるあたりがブンガクだな〜、と思った(けっして悪い意味ではなく)。もう少し、いろいろ読んでみよう。

4. 大竹伸朗カスバの男―大竹伸朗モロッコ日記

驚異的な質と量の創作活動を飽くことなく続ける真の芸術家、大竹伸朗のモロッコ滞在記。

そして心臓をわしづかみにする空の青が奇妙な曲線と切れ込む直線で区切られたそこは、明らかにタンジールであった。その昔ブライアン・ジョーンズが、着いた初日彼女とのいさかいで窓をなぐり右手首を骨折した場所であり、ジャン・ジュネが岬の墓に眠る地であり、ジミ・ヘンドリックスが69年にツアー休暇に訪れたスポットであり、ウィリアム・バロウズがホテル・マシリアで『裸のランチ』を執筆した地点であり、ポール・ボウルズが生涯の地として今も午後にミント・ティーを飲む場所である。(p.25

この地を、あの大竹氏が描いたものがつまらないわけがない。ピピッとくる文章に赤線を引こうと思うなら、中学生の参考書のように真っ赤かになり果てるだろう。滞在中に描かれた水彩画やデッサン類、写真が多数収録されていて、とても密度の濃い一冊(というか大竹氏の仕事に密度の薄い仕事はない)。内容にはまったく関係がないけど、大竹氏の本にしては装丁に工夫がないのがやや残念。ま、出版社の都合なんでしょう、きっと。ブライアン・ジョーンズの『ジャジューカ』というアルバムをすっごく聞いてみたくなった(見っかるかな)。