支離滅裂

kechida2004-10-25

最近読んだ本。

1. 共同通信社社会部『沈黙のファイル―「瀬島 龍三」とは何だったのか 新潮文庫

1時間ほど電車に乗る用事があったとき、東京駅構内の本屋でパッと目につき手に取った一冊。なぜ太平洋戦争に突入したのか、東京裁判、シベリア抑留、日韓・日中国交正常化の裏舞台、賠償金ビジネス……などなど、昭和の歴史の裏舞台を「瀬島龍三」という人物を通して検証するドキュメンタリー。この瀬島って人はまったく知らなかった。旧帝国陸軍の参謀であり、終戦後はシベリアに抑留され、シベリアから帰国した後は大手商社に勤め、軍需産業・補償金ビジネスに関わり、政治家の影の参謀として時には右翼の大物などともつるみながら暗躍した人物である。
もとは新聞に連載されていたものらしく、そのためかとても読みやすい。反面、総花的でもありやや掘り下げ足りない気もするが、参考文献一覧が付されているので、興味があるならそれを見ればいいのだろう。面白かった。

2. スティーヴン・ジェイ=グールド『ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

カナダのブリティッシュ・コロンビア州にあるバージェス頁岩*1には5億数千年前のカンブリア紀初期の非常に良好な化石が多数含まれている。ここから発見された奇妙奇天烈な生物たちが従来の進化論に大きな見直しを迫っている、という話。
釣りをしてると「キミ何ムシ?」みたいな生物にしばしば出会う。磯なんかにも「キミって何?」みたいな生物がよくいる。恥ずかしい話ながら僕はこの手の生き物が死ぬほど嫌いなのだ。釣り餌のミミズやゴカイ、イソメなんかもかなり気持ち悪い。子供の頃、普通に海釣りを楽しんでいたのだが、このムシたちを釣りバリにつけるのだけは大変な苦行だった(苦笑。このバージェス頁岩から見つかった奇妙な生き物たちはマジで気持ち悪い。復元図なんかをみているとあまりの気持ち悪さに思わず本を投げ出しそうになってしまった。
化石から奇妙な生き物たちが次々と復元される部分はとても面白かったのだが、後半の著者のグールドの論の進め方には納得しがたいものを感じた。大ざっぱにいうと、バージェス頁岩から見つかったカンブリア紀初期の生き物たちは、現在の生物学の分類には収まらないような生物ばかりであった。一般的なイメージとして、単細胞生物がいて、それがだんだん複雑化し、数も増えていき、その中からわれわれホモ・サピエンスも生じたと考える。進化を方向付けるのは有名な「自然淘汰」だ。しかし、バージェス頁岩から見つかった分類不能な生物たちが教えてくれるのは、カンブリア紀初期に生物の種数が爆発的な増えていた、ということである。だんだん複雑化しながら増えていくのではなく、何だか知らないけど最初に爆発的に増えたというのだ。これは事実らしい。その中から数種の生物のみが生き残ったのはまったくの偶然であったと著者は言う。でたらめな気まぐれから数種の生物が生き残り、その結果として人間も生じた、というのだ。だから、もう一度地球の歴史をリプレイしたなら、人間は生まれなかったかもしれない、というわけだ。僕はこれが正しいのか誤っているかを判断するだけの知識を当然持ち合わせていないので、へー、そーなんだ、としか思えないが、この著者の語り口からは学会という丸太にクサビを打ち込み、熾烈な生存競争にしのぎを削る学者の姿を思い浮かべてしまう。また、著者はバージェス頁岩を最初に発見し、発見された生物たちをでたらめに分類したウォルコットという学者をケチョンケチョンにけなすわけだが、地域的にも時代的にも限定されたイデオロギーにもとづき排撃しているように見える。要するに共和党vs民主党みたいな図式が透けて見える。単なる勘違いかもしれないけど。
本書にも登場するサイモン・コンウェイ・モリスという人の『カンブリア紀の怪物たち−−進化はなぜ大爆発したか』という本もある。気が向いたら読んでみよう。

3. ポール・オースター孤独の発明 (新潮文庫)

この作家は『幽霊たち (新潮文庫)』という作品を読んだことがある。あまり印象に残っていなかった。先日、ネットをフラフラしていてこの本について書いている人がいたので読んでみたところ、とても面白かった。これは最近僕が父親になったことも大きく関係しているかも……。
ユダヤ人ってこともあるし、全体的になんとなくフランスの哲学者ジャック・デリダとの関連というか影響を感じた。とはいっても、この超難解な哲学者の本は読んだことがなく、間接的にしか−−例えば東浩紀の『存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて』−−その思想を知らないので、きわめて適当な印象でしかない。ネットで少し検索してみたのだが、両者を一緒に論じているのを見つけることは出来なかった。

*  *  *
先日、京橋に行く用事があったので、ついでに西勘本店に行ってきた。日本の包丁は、日本の食文化を反映して種類が多い。出刃、牛刃、柳刃(刺身用)、菜切りをはじめ、ウナギ用、蛸引き用などホントいろいろある。衝動買いをしそうだったが、家人に確認してからにしようと思いなおして我慢。近々、再訪するつもり。

*1:「けつがん」と読む」