ジョニ・ミッチェルのDVD

シャドウズ・アンド・ライト[完全版] [DVD]
例えばアメリカの50年代が黄金時代だったとする*1。60年代は政治的な高揚と退潮があり、ロックもそれに歩調を合わせた。70年代はシラけたムードが支配的になった。スピリッツはもう売ってないとイーグルスが歌い、いやそれは違うと初期衝動むき出しのパンクロックが生まれたというのがよく言われるロック史である。このような定式化は現場の音楽家には鬱陶しいものでしかないだろう。ジョニ・ミッチェルがどう思ったかは知らないが、一貫して唯我独尊を貫いているのは間違いない。
ジョニ・ミッチェルはロック・ミュージシャンとは言えないかもしれない。60年代にフォーク(カントリー)歌手*2としてキャリアをスタートさせ、70年代に入りジャズに急接近する。ジャズといっても二つの傾向がある。ひとつはナイトクラブで聴くことができるようないわゆるジャズ(黄金の50年代!)。もうひとつは、フュージョンとも言われる新しいジャズ。本DVD『シャドウズ・アンド・ライト[完全版] [DVD]』はジョニ・ミッチェルジャコ・パストリアスパット・メセニーマイケル・ブレッカーといったフュージョン界の名プレーヤたちと競演するライブを収めたもの*3。ジャコパスのライブ映像は本作も含め、3枚しか残されてないという。ジャコパス・ファンならそれだけで「おかわり三杯」はいけるだろう*4
それにしてもジョニをはじめとした演奏者の間に漂う親密な空気! M2やM4でジョニ・ミッチェル、ジャコパス、パット・メセニーの3人がお互いに見つめ合いながら演奏する様を目にし、そこで成立していた何かに思いを馳せるなら、たちどころに目頭が熱くなる。M4でジャコパスがドラムス*5のドン・アライアスに一瞬目配せし、超絶ベースをワンフレーズ弾いてみせるのは鳥肌もの。
ジョニ・ミッチェルの威厳ある様にも胸を打たれる。M2*6の間奏が終わって、やや暴れ気味な演奏をジョニ・ミッチェルの歌声がピターッとおさめる。カッコイイ!
またまたM4の話だが、「コヨーテ」と題されるこの曲では奇妙な映像を目にすることができる。雪原でコヨーテが野ネズミのような小動物を捕らえようとするのだが、失敗し続けついに取り逃がす。野生のコヨーテを賞賛するような曲かと思いきや、どうやら違うらしい。逃げ切った小動物にこそシンパシーを示しているようだ*7ジョニ・ミッチェルが自分をこの小動物に重ね合わせていたどうかはよく分からないけど、この映像が含意するところはとても興味深い。

*1:実際は映画の世界では赤狩りがあったりして陰惨な時代でもあったわけだが……。

*2:シンガー・ソング・ライターと言った方がいいかもしれない。SSWとはきわめて60年代的な存在だといえるだろう。

*3:正確には1979年にカリフォルニア州サンタバーバラのカウンティ・ボウルでのライブを収録したもの。

*4:ディレイを使ってビートとベースラインを反復し、それに合わせてソロ演奏するシーンがあるのだが、凄まじすぎる。

*5:この曲ではコンガを叩いている。

*6:M2とM4の話ばかりでスイマセン。本当にこの2曲が好きなんです。

*7:歌詞はとても詩的なので僕は十分には理解できない。興味ある方はこちらをどうぞ。