私的プチ建築フィーヴァー

kechida2005-04-25

1928(昭和3)年に、皇族の朝香宮鳩彦が東京アングリング・エンド・カンツリー倶楽部の名誉賛助会員になった。この出来事について、福田和美『日光鱒釣紳士物語』から、ちょっと長いが引用してみる([ ]内は引用者補記)。

ところで、昭和三[1928]年に倶楽部の名誉賛助会員のひとりとなった皇族の帝国陸軍中佐・朝香宮鳩彦(やすひこ)の名は、アール・デコ建築の傑作として知られる旧朝香宮邸(現・東京都庭園美術館)を建てた人物として、専門家に高く評価されている。大正十二[1923]年四月、パリに留学していた朝香宮は北白川夫妻を車で案内中に事故を起こし、朝香宮妃が看病のため渡仏。健康を回復した朝香宮夫妻は、大正十四年[1925]七月、帰国を前に巴里万国装飾美術博覧会、いわゆる「アール・デコ博覧会」を見学して魅了されてしまった。帰国後もその感動は増すばかり。昭和四[1929]年、フランス人のアンリ・ラパンやルネ・ラリックなど、そうそうたるアール・デコ芸術家の作品で飾られた感の建築に着工した。軽井沢にも別荘を新築していた朝香宮は、アングリング倶楽部の英国風田園趣味よりも、むしろモダンで都会的な人工美の世界に魅了されていたため、倶楽部の総裁にはならなかった。

『日光鱒釣〜』においてはあくまで傍系的な話題でしかないのだが、このようにしっかり言及されている。ちなみに、引用文中の1925年の「巴里万国装飾美術博覧会」において、ル・コルビュジエはいわゆる「エスプリ・ヌーボー館」を発表し、そして同年、いささか逆説的な題を持つ『今日の装飾芸術 (SD選書 10)』(前川國男・訳)を出版し、いわゆるモダニズム建築というかモダン・デザインの基礎を築いた。逆説的というのは、コルビュジエにおいて「今日の芸術」は装飾的ではありえないからだ。建築という応用芸術の分野においては機能性こそが最優先されるべきであり、そこから造形原理が導き出されるというわけだ。
 というわけで、なんとなくプチ建築ブームで、とりあえず藤森照信アール・デコの館―旧朝香宮邸 (ちくま文庫)』を買ってみた。藤森照信は建築史家にして建築家で、自ら設計した「タンポポハウス」なる屋根にタンポポがホワホワ咲いているけったいな住宅に住んでいる。コルビュジエは屋上庭園というのを提唱していたが、建築史家である藤森氏は当然、それを意識してタンポポハウスを設計している。詳しくは『藤森照信野蛮ギャルド建築 (ギャラリー・間叢書)』を参照されたい。それにしても、タンポポハウスはある種エコ・コンシャスな住宅であるわけだが、ここに植えられているタンポポ特定外来生物にされそうな西洋タンポポなのか? ややこしい世の中になったものである。けっこうご近所らしいので一度実物を見てみたい。
 ところで、ついでと言っちゃアレだが、どうせアール・デコの本を読むなら、アール・ヌーボーも一緒に読んじゃえ、ってことで海野弘アール・ヌーボーの世界―モダン・アートの源泉 (中公文庫)』も買ってみた。今はまだ序章の原アール・ヌーボーの歴史までしか読んでいないがラスキンとかモリスとか色々こっちも面白そう。個人的な最終目標はバックミンスター・フラーにたどり着くこと(ここでやっとFFというかアウトドアっぽい話題に戻ってくるのだ!)。2冊ほど買ってあるものの、とりつく島がないというか、要するに知識が足りなすぎるのだが、ここに来てどうアプローチすればいいかが少し分かったような気がする。
 どうせ連休中はどこも混んでいるだろうから、久しぶりに庭園美術館へ行ってみるつもり。ジェイムズ・アンソール展が開催中だそうだ(東京都美術館でもアールデコ展が開催中らしい)。
◇写真はまたしても三平くん。近所の池にアリゲーター・ガーが! ところで、どんな話か今となっては思い出せないけど、コミック版三平の最終話は釣り人たちの政治的団結が話題になっていた記憶がある。