流線型のフライリール

流線型のフライリールが存在するのかどうか私はよく知りません。現代的なデザインを強調したリールや、機能美を追求したリールでも基本は円形です。私が唯一思いつく変な形のフライリールといえば、アブのおむすび型リール、Deltaだけです。しかしこれは三角形であり、流線型とは呼べません。
ルアーの世界に目を向けてみるとどうでしょう。現代のベイトキャスティング・リールは流線型が中心ですが、これは私がこれからウダウダ書く文脈とはあまり関係ない気がします。80年代以前に目を向けると流線型のリールは少ないです。私がとっさに思いつくのはpfluegerの2600ぐらいです。それからクローズド・フェイス・リールやスピンキャスト・リールには流線型的なテイストが感じられます。
ところで、アメリカでは1930〜40年代にかけて、流線型が大流行します。英語ではStream Lineと言います。流線型は、そもそも空力抵抗を最適化するためのフォルムであったわけで、基本は機能を追求して生まれた美です。典型的なのは、飛行機、自動車、機関車などです (例えばこんな感じ)。しかし、やがて流線型そのものが自己目的化し、エンピツ削りやトースター、インスタント・カメラまでが流線型を帯びます。モダンデザイン発祥の地、ヨーロッパからはアメリカの流線型デザインは通俗的だと非難されたようですが、現代ではアメリカの大衆的デザインの一典型として再評価されているようです。
流線型デザインのルーツはアール・デコにあります。近代デザイン史を軽くおさらいするとアール・デコに先駆けて19世紀末にイギリスでアール・ヌーヴォーが流行しました。とても簡単には説明できないような厚みを持ったムーヴメントでしたが、あえて特徴をあげると、曲線的、非対称的、植物的、感情的、生命的、性的といったところでしょうか。これに対してアール・デコは直線的、幾何学的、対称的、鉱物的、非人間的、中性的といえるかもしれません。いずれにせよ1925年にパリで開催されたいわゆるアール・デコ博がひとつの契機となり、アメリカに伝播するわけです。アメリカの典型的なアール・デコといえばクライスラービルがあります。このクライスラービルアントニオ・ガウディサグラダ・ファミリア教会を比べたとき、アール・デコアール・ヌーヴォーの違いがよりはっきり分かる気がします。
いずれにせよ、アール・デコの一側面を強調した結果生まれたのが流線型であったワケですが、なぜか釣り具の世界はこのアール・デコ=流線型系のデザインの影響をほとんど受けませんでした。釣りがもともと自然志向の趣味であるため、アール・デコ風の人工美を嫌ったのかもしれません。ただ、MANI-HANAさんweb FFJで深く探求してらっしゃるプチ・オールド・ハーディのPrincessや、アバクロのBanty 44の鉱物的なカラーリングにはアール・デコの臭いがプンプンします。Princessの方は英国製なので、私がここで書いてきたアメリカにおけるアール・デコ=流線型の流行とは全然別の話になりますが、アバクロのBanty 44はなかなかシンクロ率が高いです。しかし、そもそも竿だし、流線型とも全然関係ありません。というわけで、近代デザイン史と釣り具の歴史に接点はあるのか?とぼんやり考えていたワケですが、今のところはまだまだ生煮えな感じです。失礼しました。