補足

kechida2006-01-18

id:kechida:20050520について、「十鱒」さんという方からコメントをいただきました。やや長くなるので、このエントリをもってレスとさせていただきます。
私は以下のようなっていたら分かりやすかったと思います。

  • あえて「ヨリモドキ」「スイブル」という言葉を使いたいのだったら、註を付けて典拠を示す(例:「倉場富三郎発・大島久治宛書簡、XXXX年XX月XX日、XXXX図書館蔵」)。
  • 典拠を示す必要がないという判断だったら、カッコを外してヨリモドシ、スイベルという現代的な表記のみを示す。

前者のような註がついていれば、すべてはすっきりします。十鱒さんも推測されてますように「 」がついていることから誰かが使った言葉である可能性が高いですが、これはあくまで推測でしかありません。また、文脈上「ヨリモドキ」「スイブル」という言葉を使う意味はそれほどないようにも思われますから、後者でもいいのではないかと思います。いずれにせよ現状ですと、「何かの資料があることはほのめかされているが、詳細は分からない」という中途半端な状態になります。これは同じ日の別のエントリで引用した「ハンス*1は帰りの車のなかで、熊雄に「ブラックバスのルアー釣りはどうも味気ない。毛鉤で鱒を釣るほうが数段楽しく芸術的だ」と話している。」という記述にも当てはまります。当然、著者はハンス・ハンターから直接聞いたわけではないでしょうから、誰かから聞いたか、何かで読んだのだろうと推測されますが、それが何かは分からないのです。
もっと自分で調べなさい、という批判はお受けしますが、一方で書物の役割は啓蒙=知の民主化であるとも考えています。貴重な一次資料にすべての人が触れるのは難しいことですし、また膨大なアーカイヴを読み解くのも難しいことです。私が当ダイアリで言及したロバート・ワイトマンゾルゲ 引裂かれたスパイ〈上〉 (新潮文庫)』(新潮社) や、江藤淳占領軍の検閲と戦後日本 閉された言語空間 (文春文庫)』(文藝春秋) などをお目通しいただけると、私が考える良い論文が分かっていただけると思います。これは内容とはまったく関係ありません。論文をどう書くか、という作法の問題です。『日光鱒釣紳士物語』の内容は素晴らしいものであるだけに、リファレンスの精度がもっと高ければ、と思ったのでした。

*1:また余計なことを指摘しておくと、通常は人の名前は姓で呼ぶべきでしょう。ピカソのことをパブロと、フロベールのことをギュスターヴと呼ぶのは変な感じがします。ジョン・レノンはジョンでしょうけど。ちなみに『日光〜』では赤星鉄馬は「鉄馬」ではなく「赤星」と書かれています。