リアリティ

kechida2007-12-25

イワナ俚諺*1がいつの時代に成立したかは詳かではないが、 釣り人の間で有意な指標として存在し得たのは、昭和30年代が最後であったようである。その頃から釣り人の意識のなかで俚諺のもつ意味、あるいは価値というものが変容したことになる。その背景には、高度経済成長による開発やモーターリゼーションの波が波及したこと、渓流魚の存在自体が自然現象から補充可能な、養殖魚の時代へ移行したことも要因の一つとしてあろう。而してそれは、釣り人と自然の遊離にほかならないのであり、郷土を忘れることは直ちに自分自身のリアリティを忘れることにほかならないのである。

鈴野藤夫「桂川水系のイワナ分布」『丹沢釣り風土記』白山書房、1990年、p.231

*1:「北面の暗い地形の沢にはイワナが棲むが、東面の富士の見える沢にはイワナは棲まない」という、かつて郡内の大月市の釣り人に伝わっていた俚諺のこと。