400円で買える幸せ――気まぐれ美術館

最近、家から半径2キロほどの世界でしか生活していないので(ジョギングと通勤をのぞく)、またしても近所ネタです。
近所におそろしく趣味のいい古本屋があります。行くといろいろ欲しくなってしまい、頻繁に通っていたら破滅しかねません。なのでなるべく近づかないようにしています。「欲しい」というのは「読みたい」である場合もあるし、「所有したい」「集めたい」といった本にとっては二次的な理由である場合もあります。
あまりに平和で退屈だった日曜の午後、久々に禁を破ってこの本屋に行ってしまいました。危ないのですべての棚を眺めることは控えました。美術本をつらつらと眺めていると洲之内徹の『気まぐれ美術館』の箱入りの単行本を見つけました。即キープ。私にはその価値を十分に表現する事ができないのですが、日本の近代洋画史を生きた歴史として自分のものにするために、ぜひ読んでみたい本なのでした。つい最近まで(といっても10 〜20年くらい前まで)、普通に売っていた本であるようなのですが、絶版となっていました。この本が醸し出す存在感――「体臭」と言ってもいいような存在感にもあらがう事ができませんでした。
「ちなみに文庫はないっすよね?」とレジにいた女性に聞いてみたら、「ちょっと待ってください」とガサゴソ荷を解いていない古本の山を探しだすではありませんか! 事の成り行きを見守るべく、また本棚に目を向け、結論を出るのを待っていると、二階へ店主を呼びに行きました。店主はあっさりと僕が所望する本を2冊見つけ出しました。『芸術新潮』に連載されていたエッセイをまとめたこの本、全部で5冊出版されています。今回僕が手に入れる事ができたのは、最初二番目のヤツ。それぞれ400円。ついでに箱入りのハードカバーも買ってしまいました。
カバーの折り返しには洲之内徹の経歴が以下のように記されています。

洲之内徹
Sunouchi Toru
(1913―1987)
松山市生まれ。左翼運動に参加して東京美術学校建築科中退。郷里で運動を続けるも、検挙。1938 (昭和13)年、中国に赴き軍の諜報活動に関わる。
戦後、田村泰二郎の尽力で小説を発表、芥川賞候補三回。’60年に田村の現代画廊を引継ぎ、’73年『絵の中の散歩』を上梓。(以下略)