Palermo Shooting


4月というのに陰鬱で寒い土曜日の午前、釣りに行く気にもならず、録画してあったヴィム・ヴェンダース監督の『パレルモ・シューティング』を観ました。『ベルリン 天使の詩』以降のヴェンダース作品は『ベルリン〜』というあまりに完璧な作品を作ってしまったが故、難しい局面を迎えているという印象を持っています。といっても観たのは『リスボン物語(名作ではないけど良心的な佳作)と『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち(劇場まで観に行ったけど僕にはちょっと厳しかった)だけですが。そんな訳であまり期待していませんでしたが、これは良い映画でした。
デュッセルドルフ在住の流行のカメラマン・フィンは、成功した仕事、そして華やかな生活の一方で仕事に疲れ、行き詰まりを感じ、「死」に魅入られます。行き詰まりを打開すべくパレルモをロケ地に選び、ひとつの仕事(妊娠中の女優ミラ・ジョヴォヴィッチの撮影するという仕事)を終えますが、フィンはそのままパレルモの地にとどまります。そして、さらに「死」は彼に近づいてきます。そんな中、絵画の修復家であるフラヴィアと出会います。フラヴィアは2年前、不幸な事故で恋人を失い、フィンとはまた違う形で「死」に接したばかりです。そんな二人はお互いの魂を癒すべく、フラヴィアの亡祖母の実家があるガンジという町に向かいます。ガンジでフィンは「死」と向き合い、「死」と対話し、「死」を理解し、愛に目覚めます。
前半はデュッセルドルフの都会の喧噪、無機質な街、そこで繰り広げられる空虚な生活が、後半は古い歴史を持つ風光明媚なパレルモを舞台にして、ゆるやかな(はやりの言葉で言うならスローな)暮らしが対照的に描かれます。作品の着想は明快であり、それを表現するアイデアも明快です。幻想=「死」が現実を浸食する様も単純であるにも関わらずとても詩的かつ効果的に描かれています。スタイリッシュであることに迷いや衒いはなく、そこも気持ちいいです(予告編にある通り、今どきベスパに二人乗りですから。ただベスパ二人乗りはまた別の映画的記憶と結びついているわけですが)。フラヴィア役のジョヴァンナ・メッゾジョルノの知的な美しさはとても印象的です。ガンジの街はあまりに美しく旅への欲望を掻き立てます。旅に行きたいなぁ……。
余談ですが、映画を見れば一目瞭然ですが、Palermo Shooting の shoot は「撮影」と「射撃」の二つの意味で使われているのでしょう。