最近読んだ本(いずれも「当たり」だった)。

1. 江藤淳占領軍の検閲と戦後日本 閉された言語空間 (文春文庫)

米軍によるアフガニスタンイラク攻撃の最中、誤爆により民間人に被害が及ぶと各種メディアが米軍を糾弾したものだ。しかしながら、我々日本人は、米軍に原爆を落とされ、多くの民間人が被害にあったのにも関わらず、そのことを当然のことのように受け止めている(先の民間人誤爆の例から考えるなら、日本人(というか人類)に対して二度も大量無差別兵器たる原爆を投下した米軍は人道的な見地からして大いに非難されるべきなのだ)。すなわち、一部の軍人が独走し無謀な戦争を仕掛け、そのため関係のない民間人までが巻き添えを食った、というわけだ。少なくとも僕は、ボンヤリとそんな風に事態を理解していた。しかしながらこの本では、占領軍たる米軍の検閲政策ゆえ、我々日本人はそう考えるようにいたったという。実際、占領軍は「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(戦争に罪悪感を感じさせるプログラム)」というものを日本で展開していたそうだ。すなわち、我々は「米軍」と戦争して破れたにも関わらず、その敵意を一部の軍人や政治家に向けるようにされたというわけだ。僕はこの意見を100%支持する気にはなれない。しかしながら、6割くらいは当たっているのではないかと思う。とても面白かった。

2. 森下嘉一郎『趣都の誕生 萌える都市アキハバラ

超オススメ。かつてはメイド・イン・ジャパンの電化製品の街であった秋葉原がいつの間にか、アニメ、ギャルゲー(エロゲー)、同人誌の街になってしまったことを手がかりに様々な議論を展開する。ひとことで要約するのは難しいが、著者がよって立つ図式に「渋谷 vs 秋葉原」あるいは「ディズニー vs 日本のアニメ」がある。すなわち、渋谷においては外国ブランドに代表される「外在化された価値」に重きを置く一方、秋葉原においては家電に始まり一貫してメイド・イン・ジャパンに価値を置く。ディズニーにおいては、本来残酷であったりするヨーロッパの童話(例えば『白雪姫』など)を滅菌して、ツルっとしたアニメーションに仕立てあげたのに、日本のアニメにおいてはふたたび暴力(戦闘ロボット)と性(コスプレ系美少女)が取り入れられる。そーゆーことをいろいろ分析するわけだ。サティアン+富士山を丹下健三「大屋根」+岡本太郎太陽の塔》と読み解くのは見事という他ない。

話はやや脱線するが、多くの論者が指摘するように、秋葉原的な感性が見出す「日本」が奇妙にねじくれているのはちょっと面白い。例えば『うる星やつら ビューティフル・ドリーマー』において終わらない日常を生きる登場人物たちは「牛丼」に執着する。牛丼とはすなわち「和風なファーストフード」であり、「アメリカ産の材料で作られた疑似日本」(東浩紀)に他ならなかったわけだ。
東浩紀動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)』、斉藤環戦闘美少女の精神分析』あたりと併せて読むとより面白いと思われます。

3. ウィリアム・S. バロウズジャンキー (河出文庫)

筋金入りの麻薬中毒者であった著者の実体験に基づいた身辺雑記風の小説。後の作品に見られるような実験的な要素はないが、メチャメチャ面白い。子供には見せたくない本。