『グラバー図譜』

kechida2005-05-20

資料探しに神田の古書店街をフラフラしていたら、『グラバー図譜』を売っている店がふたつほどあった。ひとつの店は値段が表示されていなかったが、もうひとつの店ではなんと¥1,680,000!
『グラバー図譜』はトーマス・ブレイク・グラバーの息子、倉場富三郎*1が編纂した魚類図鑑で、正式には英語でFishes of Southern and Western Japan、日本語で『日本西部及び南部魚類図譜』と言うそうだ。 コチラ コチラを参照されたい。また、コチラでは電子化された『グラバー図譜』の美しい図版を見ることができる。
福沢和美『日光鱒釣紳士物語』には、『グラバー図譜』を編纂中の富三郎に関するエピソードが紹介されている。少々長くなるが引用してみる。

[中禅寺湖畔の] 旧グラバー別荘をハンスに譲った富三郎の足は、しだいに中禅寺から遠のいていった。(…) そんな富三郎から、昭和五年の秋になると、[大島] 久治宛の手紙が立て続けに届いた。久治が開封してみると、釣りに使うヨリモドキが同封されていた。富三郎の手紙には、これと同じ形のヨリモドキが中禅寺にあるならば二、三十個ばかり買い求めたいので送ってくれないか。もし中禅寺で手に入らない場合は、どこで扱っているのか注文先を教えてほしいと書かれていた。(…) 「ヨリモドキ」や「スイブル」はいわずと知れた釣り具の一種で、仕掛けのもつれや切れの原因となる糸ヨレを防ぐための小道具である。(…) では、富三郎はなんのためにこうした器具の手配を久治に依頼したのだろうか。まっ先に思いあたるのは、富三郎を夢中にさせていた『魚類図譜』のことである。*2

父トーマスは、日光に故郷のスコットランドを重ね合わせ、さらにそこにブルック・トラウトを放流してフライフィッシングを楽しんでいたのに対し、半分日本人の血を引く富三郎は長崎の海に棲む日本のネイティブの魚たちを調べることにその情熱を捧げた、と言えるかもしれない。そう考えると富三郎の自死はいかにもいたましい。

*1:以前に当ダイアリでも 簡単に言及している

*2:福沢和美『日光鱒釣紳士物語山と渓谷社、pp197-199.ところで「ヨリモドキ」や「スイブル」という呼称が、何かの原典に由来しているのか、それとも単なる著者の間違いなのかはこの本からは判断できない (今では「ヨリモドシ」「スイベル」と呼ぶのが普通だろう)。この本は大変参考にさせていただいているのだが、アカデミックな論文としてはやや雑な部分が散見される。