主語の不在

フライロッドを片手に雑誌をつくった―27人が語る、『FFJ』と『フライの雑誌』をつくった編集者のこと
フライロッドを片手に雑誌をつくった―27人が語る、『FFJ』と『フライの雑誌』をつくった編集者のこと』を読了。とても面白い本でした。一方、先日のエントリに書いた違和感の正体が分かった気がしました。
この本の題名を英語に訳するのは難しいです。なぜなら主語がないから。I 、You 、He (She)、We のいずれでも良さそうです。Theyはちょっとヘンかも。「with 誰某」と加えると意味がはっきりしてきます。というワケで、「作った」にとりあえず「made」を当てはめ、私の印象では無理がない英訳をすべて書き記すと:

1) I made a magazine holding fly rod in hand (with him/you).
2) You made a magazine holding fly rod in hand (with me/us).
3) He made a magazine holding fly rod in hand (with me/us).
4) We made a magazine holding fly rod in hand.

となります (私の英訳がヘンだというもっとも恥ずかしい可能性は考慮していません)。例えば 3) の場合、He made a magazine holding fly rod in hand (with you). という文も成り立ちますが、本の内容を考えるとあり得ないように思われます。「彼はあなた (がた) とフライロッドを片手に雑誌を作った」。それはやっぱ違うだろう、と。
日本語的には、1) の「 I (私)」がもっともしっくりくると個人的には思います。

私はフライロッドを片手に雑誌を作った (彼/あなた と)

しかし、この I は渡渉舎の編集人の方を指すことになるので、意味的にはちょっとコッ恥ずかしいヘンな題になってしまいます。withに続くyou/himは、もちろん中沢孝氏を指します。そう考えると、主語は 3) の He なのでしょうが、日本語的には「彼」を主語に据えるとちょっとおさまりが悪い気がします。

彼はフライロッドを片手に雑誌を作った (私/我々 と)。

meは渡渉舎の方を、usは渡渉舎の方を含め寄稿者全員を指すと考えるべきでしょう。読者まで広げても良いかもしれません。2) のYouは 3) のHeと基本的に同じことです。Youの場合、第三者の目を意識していない感じがします。4) のWeの場合、「with 誰某」は必要ありません。このWeは中沢氏、渡渉舎の方、そして27人の寄稿者、さらには読者を指すと考えられますから。しかし、読者にまで広げるとやっぱり違う気がします。読者の方がロッドを片手にフライの雑誌を熟読し、そしてこの雑誌を支えてきた、という図はちょっと滑稽です。
実際のところどれなんでしょう?