彼我の差

kechida2005-11-24

家人はヘミングウェイが好きらしく、文庫で買える本はほとんど持っています。一方私は大学生のころ『老人と海 (新潮文庫)』だけは読みましたが、なんとなく敬遠してきました。「釣り」と「文学」が私の中ではうまく結びつかなかったからです。
最近、ようやくヘミングウェイ井伏鱒二*1の「釣り文学」を読んでます。両者とも甲乙付けがたい魅力を放ってますが、なんとなくヘミングウェイに嫉妬してしまうことがあります。

公園の突き当たりにあるリュクサンブール宮殿に近づくにつれて、彼の足は早くなり、胸が高鳴ってくる。当時、この宮殿の中にはリュクサンブール美術館があった。そこに展示されている数々の名画のうち、とりわけ、後期印象派のある画家の絵と対面することこそが、いまの彼の日課の一つなのだ。
ヘミングウェイセザンヌの絵の前に立つ。1920年代にリュクサンブール美術館に展示されていたセザンヌの作品は、“レスタック”、“オーヴェール・シュル・オワーズの農園”、それに“ポプラ”の3点。なかでも“レスタック”と“ポプラ”に彼は魅[ママ]かれている。いまはその二つの絵が、彼にとって、創造上の“師”にも等しい。1921年の末にパリに到着して以来、彼が“師”と仰いだ人物は二人いた。イマジムズ派の詩人エズラ・パウンドと、前衛的な作家ガートルード・スタインである。

われわれ釣り人にとっての永遠の名作「二つの心臓の大きな川」もパリ滞在時に書かれたものだそうです。ちなみに、ヘミングウェイも井伏も同じ1899年生まれ。20代にしてセザンヌの実物の絵を見たことがあるヘミングウェイと井伏の差を考えずにはいられません*2セザンヌを絵を知っていたからといって偉いワケではありませんが、知っているのと知らないのでは大きく違うのではないでしょうか。また、いまだに日本ではエズラ・パウンドガートルード・スタインも一般的には十分紹介されていません。これは極東の島国であるという地理的な特性も関係するし、日本語という特殊な言語を使用しているということも関係していることでしょう。そんなことをボンヤリ考えました。私が今、文学部の釣り好きの大学4年生だったら卒論のテーマにしていたかも(笑。
追記
エズラ・パウンドガートルード・スタインはてなキーワードになってました。すごいゾ、はてな!(もちろん私はいずれも未読です) 余談ながらはてなキーワードにある通り、ガートルード・スタインピカソの絵に描かれているのは知ってましたが、最近知ったところでは、ガートルードの兄、マイケルのスタイン邸ル・コルビュジエが設計したそうです。マイケル・スタインはマティスのコレクターでもあったとか……。これまたヨーロッパの知的底力なのでしょうか。
◇写真は最近マニハナ鑑定団で鑑定依頼したリールです。

*1:この「鱒」の字は間違ってます!

*2:井伏がセザンヌとどう出会ったのか、あるいはまったく出会わなかったのか、不勉強なので私は知りません。