三十年前の渓流釣場事典


奥付を見ると初版は1979年ということですから、今からほぼ三十年前のことです。そんな中途半端に古い鈴野藤夫『関東 信越 渓流釣場事典』(新評社)という本をたまたま手に入れることができました。帯には「釣鬼・鈴野藤夫が送る 渓流ファン必携のバイブル」と大きく印刷されています。三十年前の釣り場案内が役に立つの?と思う向きもあるでしょうけど、私はもちろん役に立つと考えたから買ったわけです。たぶん、盲点みたいなものを探すきっかけになるのではないかと思うのです。また、過去のある時点での谷の状態・評価を知ることは、谷の変遷・盛衰を理解するための格好の視点を提供してくれます。
それから、ほんのちょっとだけノスタルジーを感じてもいます。大量生産される製品はことごとく味気なくなりつつある中、本も例外ではありません。とくに現代のこの手の実用書はモノとしての魅力は皆無に等しいです。まぁ、実用書だからそれでいいのでしょう。三十年前だってそういうコンセプトで作られていたに違いありません。であるにも関わらず、何か味のようなあるのです。地図や書体、紙質などからもそれは感じられるし、頑丈な製本は誠実さが滲み出します。たぶん三十年前くらいはマスプロダクトがそれと意識することなく自分らしく振る舞えばアウラを持ち得た最後の時代なのではないかと思うのです。それ以降は、意識的でないとアウラはあっという間に損なわれます。
で、余談になりますが、本のフェティッシュな側面にたいしてかなり意識的だと思われる渡渉舎より2冊の本が刊行されるようです。