ついでに久々ヘル・サイヨニ

ところで最近読んだ井伏鱒二の『井伏鱒二文集 3 (ちくま文庫)』の中に「湯河原沖」という文章が収録されています。「八王子の瀧井(孝作)さん」から「湯河原の福田蘭童氏」の船に乗って釣りをしないかと誘われます。狙いはカマス瀧井孝作も、福田蘭童も私は知りません。福田蘭童は「尺八では天才的な才能がある人だと聞いていたが、瀧井さんの話では、海釣りも川釣りも天才的である。猟銃の方でも大した腕前で天城山へ猪を撃ちに行くそうである、おそらく手先の勘が鋭い人にちがいない」という人だそうです。そして、3人で釣りした夜のことです。

その夜、私は瀧井さんと一緒に蘭童氏宅に泊まった。夕食のとき、蘭童氏の釣友の公一さんという人が、「本日の釣果だ」と云って三歳の黒鯛を持って来た。ただし、たった一尾であった。(146頁

これはもちろん西園寺公一でしょう。『新編 釣魚迷 (つり人ノベルズ)』の「真鶴と伊豆(磯釣り・船釣り)」という文には以下のようにあります。

「西さん、カマスに行こうよ」、蘭童君が誘いにくる。ときどき、尺八の鬼才福田蘭童の離れに居候しては釣りを楽しんでいた頃──日本が真珠湾の奇襲から太平洋戦争に突入する少し前の頃である。(20頁

こういうのを見つけると静かに興奮してしまいます。