サイン本

最近、私は2冊のサイン本を入手しました。ひとつは湯川豊の『夜明けの森、夕暮れの谷』で、もうひとつは知来要の『森のフィッシュ・ウォッチング』です。前者は新宿の釣り具のデパートで買いました。「楽しい釣りを!/湯川豊」とサインされています。後者はAmazonの古本屋で買いました。「○さんへ/知来要」とサインされており、落款も押されています。売った人は誰なのでしょう? 非道い人です(笑。
『夜明けの森〜』は、昨日から読み始めましたが、もう読み終わってしまいました。資格取得のために教科書ばかり読んでいた私の砂漠のような脳味噌にはアッいう間に吸い込まれてしまったのでした。「勝ち組、負け組」などという奇妙なキーワードとは無縁のところで人生に成功した湯川豊*1が紡ぎ出す言葉は堅実かつ正確で、皮相さとは一切無縁であるように思えます。その文体はまるでヤマメのパーマークのようだ……、などと思わずワケの分からないことを呟いてしまいそうです。つまらない冗談はさておき、「カラス天狗のイワナ」という話を読み終えたときは、不意に電車の中で涙が溢れてきそうになり困りました。

フライ・フィッシングは、淋しくならずに孤独でいることができる、この世の唯一の場所だ、とロバート・トレーヴァーはいった。(…) つけ加えることがあるとすれば、フライ・フィッシングは友人と一緒にいても、なお孤独でいることができる場所でもある。

湯川豊「谷に降る雨」『夜明けの森、夕暮れの滝』マガジンハウス、2005年、p.109

このような決定的な認識は日本におけるロハスをめぐる軽薄な騒ぎとは一切無縁であるに違いありません。

*1:大手出版社で取締役を勤め、大岡昇平植村直己と親しくつき合うことは誰にでもできることではありませんし、「夕涼みの縁台を組める」ほどのバンブーロッドを所有することも同様です。